
「星川咲の優雅なる一日」
~Lys blanc~
ダブル ツイン
わたし――星川咲の朝はとても早い。
空が白み始めた午前六時半くらいには、すでに机に座っています。早いです。早いというか徹夜なんですけど。
「朝日が身に染み入ります」
吸血鬼であるわたしにとって、太陽の光はジュースのようなものです。おかし? ご褒美? ケーキかなー。なんでもいいですね。わたし吸血鬼じゃないですし。人間人間にーんげん ! 人間は太陽を食べません。あ、アイス食べよー。
わたしはイラストレーターとして働いている。お金もいっぱいあります。
そんなわたしの一日は、やはり絵を描くことから始まります。
「よほほー。よーほほー。よっほっほっほー。らららー」
家を出るまでの時間で、ちゃちゃいとやっちゃいましょう。
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「ふー。終わりました終わりました!」
興が乗って五枚くらい描いちゃいました。
そろそろ時間も危ない頃でしょうし、切り上げて学校へ向かいましょうか。
時計を見てみると、時刻はすでに午後一時半。午前の授業は終わってしまいました。
「眠い……」
寝ます。
☆ ★ ☆
今日は学校に行きます。この前は別にサボったわけではないのですが、結果的にサボりと思われても仕方のないことをした自覚はありますからね。あ、朝ごはん食べてない。
「いってきまーす」
午前十一時。おうちを出て最寄り駅へ向かいます。あ、ちなみに遅刻です。
さて、それでは昨日は出来なかった日課とやらを始めましょう。
人間観察――それが今のわたしがすべきこと……らしいと聞きました。
わたしには人の心がわかりません。世の中の人たちが何を考えて、何を求めて生きているのか。それはわたしが所属している文芸部のセンパイ方も、そしてわたし自身も例外ではありません。
わたしはそれでもいいのですが、文芸部の顧問である西条先生曰く、それではダメらしいです。なんでも飽きられてしまうと、それで終わってしまうと。
ですのでこうして、毎日の登校の中で道行く人々を観察し、その心の情動を掴もうと思うのですが……
「ふむ……わかりません」
わかりません。かといって取材と称して話しかけるのはあまりやめた方がいいらしいですし……
「カズくん、遅いよ~。謝ってー」
「ごめんねユイちゃん。行こうか」
「うんっ」
今の女子高生の方、怒っていたのに男の人が謝るとすぐ笑顔になりました。わたし知ってますよ。ああいう人のことをアバズレ女って言うんですよね!
「また一つ賢くなりました。褒めてくださいセンパイ!」
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ああ、そういえばわたし一人で登校してたんですね。忘れてました。センパイって誰でしたっけ?
教えてあげるよ。『センパイ』っていうのはさ、同じ文芸部で小説家を目指している門倉良太センパイことだよ。
な、あ……あなたは――星川咲!?
いいや違う。わたしは星川咲・W・T・マークⅡセカンドだ。
星川咲・W・T・マークⅡセカンド!? パクリですか!?
ああそうだ。……で、なんだっけ? 門倉良太のことが知りたいんだよな?
は、はい……。あなたに教えてもらうのは釈然としませんがね! 星川咲・W・T・マークⅡセカンド。
ならば教えてやろう、オリジナル。君はいつも邪険に扱われるけど、彼は実は君のことが大好きなんだよ?
知ってます。死んでください星川咲・W・T・マークⅡセカンド!
ぐぎゃー!
ちなみにわたしもセンパイの前だと普段よりもおしゃべりになります。まさか、わたしもセンパイのことが大好きなのでしょうか? そんなことよりお腹が減ってきました。タコ焼きでも食べたいですねー。
☆ ★ ☆
『わたしたちは、この国を変えたいと思っています! 消費税を廃止します! 他国とのつながりを大事にし、戦争に断固反対する意思を! この国のすばらしさを――――』
最寄り駅ではなにやらマイクを持っている人が。政治家によるゲリラライブです。
『みなさんどうか! どうかわたしたちの言葉に耳を傾けてください! 目を開き、あなたたちの生活のために!』
なんとなくいいことを言っているのはわかるんですが、あんまりよくわかりません。彼はいつも何を考えて生きているのでしょうか。
あまり興味がないので視線を別に向けると、そこでは幼稚園児らしき子供たちが箱を持って、大きな声でなにか言っていました。え? わたしの体も幼稚園児みたい? んもー、この褒め上手―。ぶっ殺しました♡
さきは みみをすますを つかった!
「ぼきんよろしくおねがいしまーす!」
「「「おねがいしまーす!!」」」
な、な、な……!
なんていい子たちなんでしょうか!? すごいいい子です! いい子すぎてとってもいい子ですね! ご褒美としていい子ポイントを贈呈しますっ!
「いい子ビ~~~~~~~ム! ビビビビビビビビビビ」
いい子ビームを発射しながら、わたしは思います。
あの子たちはとても心の優しい子なのでしょう。でなければ募金なんてできませんっ。
それに比べてわたしはどうでしょうか?
人の気持ちが全くわかりません。まるで人の心がないかのようです。化け物、人でなし、人を超越せし者、究極の存在、真の美少女、種の究極、人類の到達点。
これではダメです。ここは勉強のためにも、あの子たちに協力すべき……!
財布から適当にお金を取り出します。一万円札しかないですが、まあいいでしょう。いっぱいありますし。
「え、あの……っ」
五枚くらい入れると、先生らしき人が驚いていました。ふふふ、五万円募金です……これはもういい人と言っても過言ではないでしょう。
「褒めてくださいセンパイ!」
「え、あの……え、偉いですねー」
「あ、ごめんなさいあなたじゃないです」
「あはは……」
とても嬉しそうに笑っています。喜んでもらえたようで何よりです。
お礼にお花を貰ってその場を後にします。おいしそうなお花ですが、食べ物は見た目通りおいしいとは限りませんし、毒や菌があるかもしれないので口に入れるのは控えます。
代わりと言ってはなんですが、綺麗なお花ですし部室に飾りたいですね。
「せーんぱい、せんぱい。せんぱいぱーい。おっぱいおっぱいおいしーなー」
これは公衆の面前で歌っていいものではないので、電車や道で歌うことはおすすめしません。今もすごく変な目で見られてしまったので。
けど、わたしは知っています。センパイはこういうわたしを否定しないことを。あ、今のはいい感じのこと言いましたね。
ツー

☆ ★ ☆
授業中はいつも寝ています。そんなことよりもタコ焼きおいしかったですね。今日の夜ご飯は焼き肉がいいのですが、さてさてそれが叶うかどうか……
焼肉と言えば塩タンですが、塩タンはおいしいです。私が好きなのはハラミですが。むむっ、石焼ビビンバが食べたくなってきました!
授業が終わると部活の時間です。クラスではわたしと話してくれる人がいませんが、文芸部のセンパイ方はわたしとお話してくれます。きっととても優しいのでしょう。
それでは、いざ――
「センパイセンパイせーんぱーい! 今日学校来る前に焼き芋食べたんですけど美味しかったですよー!」
……誰もいないです。ううっ、なんて虚しいのでしょう。元気に挨拶しても誰も返してくれないだなんて。
やだやだ! やーだ! やだやだやだやだやーだ!
ま、いっか。
「今日は遅いということでしょう。センパイが来るまで――」
絵を描こう――そう思った矢先、がらっと勢いよく扉が開けられた。
センパイだ!
扉の向こう、憮然とした表情を浮かべるのその人へ、わたしは思いっきりダイブした。
「カギ開いてんな。入るぞー」
「センパ――――――――――――――――――――――イ!!!!!!!」
「ぼぐふぉア!?」
ずだーん! というオノマトペが上の方に表示される感じで、わたしはその人にぶつかった。
「ってぇ……! 死ぬかと思った」
苛立ちの滲んだ声音を聞くと、胸の奥で誰かが躍り始めました。
「お久しぶりです、センパイ!」
「……うぜえ、さっさとどけボケ」
「どいて欲しくば命を寄こすか永劫眠れ。それか死ね」
「どうあっても戦いを避けることが出来ない展開タイプの敵キャラやめろ」
「死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫!」
「殺意の奥から猫が溢れてるぞ」
「猫殺-NYAN EXECUSION-」
「そんな忍殺みたいな……」
こうして劇的な再会を果たしたわたしたちは、世界の滅亡を止めるため黒幕たちとの戦いに身を投じていくことになるのだった。
「To be continued...」
「なに言ってんだおまえ……頭おかしいだろ」
シャシャシャシャシャシャシャ
シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ