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「始まる前の」

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ヘリオス・ヴェール

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 駅に向かいながら頭の中でいろいろ考えてみるけど、やっぱりなんにも思い浮かばない。

 正解が見えなくて悩んでると、少し先に見覚えのある顔がいた。

 やる気無さそうなあの感じは、門倉だ。

 いつもは一人でぼーっとしてるだけの根暗オタクが、今は女の子と二人で帰っていた。

 ……女の子と二人!? えっ? あの門倉が!?

 なんで? 友達もいないし誰とも話さないしそもそもクラスラインにすら招待されてないあの門倉が!?

「…………世界ふしぎ発見?」

 男子も女子も変わらず、恋人ってステータスみたいな感じだと思ってるけど、その点から考えると門倉は最悪の部類だと思うんだけど……

 ……お金?

 なんか違う気がする。

 てゆーか相手の子は……

「あれって弓川さん?」

 これまた同じクラスの地味目な子。ただし弓川さんは門倉と違って別に嫌われてるって感じはしない。良くも悪くも目立たない地味な女の子って感じ。ま、あたしはちょー可愛いと思ってるし、弓川さんの可愛さに気付けない男子ってほんと馬鹿じゃない? って感じだけど。

「尾けよ」

 

 門倉のことは嫌いだけど、クラスの嫌われ者と知名度の低い美少女……これは〝事件〟の予感がする。あたしの第六感がそう言ってる。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 うちの学校には最寄り駅が二つあるんだけど、門倉と弓川さんが使っているのはあたしとは違う方だった。

 でもそんなの関係ない。名探偵・新藤あいりはスクープを取るためなら、逆方向の電車に乗るくらいの労力は惜しまない。

 つかず離れずの距離を保ちつつ駅まで尾行。それから同じ車両に乗り、話が聞こえるくらい近い位置に陣取る。

 もう尾行って感じじゃない距離になっちゃってるけど大丈夫。

 あたしも同じ制服を着てる以上、同じ車両に乗るのも近くの吊革に掴まるのも何も不自然なことじゃないからだ。

 二人とは特に仲良くもないし話しかけられる心配もない。たとえ話しかけられても、同じ学校の生徒なんだから問題ない。

 全部ユイやかなこの恋を応援するときに身に着けたテクだ。高校生女子たるもの、やっぱ友達の恋愛事情は把握しとかないとだからねー。

「門倉くんっ」

 

 あっ、始まった!

 話しかけられることも、二人があたしに気付くこともなく、待ちに待っていたこの瞬間が訪れる。

 さてさて、ちょー嬉しそうな声だったけど、これはやっぱ当たりじゃない?

 

 

「リヴェンジテイル、すごく面白かったよ!」

「そうだろそうだろっ。今回のはマジで自信あったんだよ。俺も書きながらボロカスに泣いたからな……」

「うんうん、わかる……! 五年間ずっと一人で戦い続けてたアイラちゃんが、想介くんに助けを求めるのがね。想介君たちとの対立とか、祖国の人たちのアイラちゃんへの憎悪、あとは過去編で徹底的にアイラちゃんの境遇を書いてたからこそだよね……」

「そうそう。あとお気に入りなのはあれだな。アイラの魔法の設定が上手いことハマったのも完璧だったな」

「『煌炎の衣』いいよね……。『蓄積した悲しみに応じて火力が上がる炎を纏う』っていう能力で悲惨さを演出して、『涙を流せば弱くなる』っていう設定で救われることに代償があるの、本当に酷いよ」

「でもだからこそ救済に価値が生まれるんだよ。ヒロインは絶望の絶望を重ねて、涙も流せなくなった後に救われて涙を流すのが最高ってのが俺の持論だから、その展開をメタ化して設定にしたんだよな。まさかここまで最高になるとは思わなかったが。やっぱたぶん、俺って天才なんだろうな……」

「ふふふ……あれは神の一手だと思うよ……!」

 耳に入ってきた会話は、あたしが想像していたものとはかけ離れてた。

 恋人同士の会話ってゆーよりは、完全にオタクの会話。リョーマとかが聞けば「オタクっぽい」とか言って笑いそう。

 でも、二人は周りにどう思われてるかなんてどうでも良さそうで、ずっとちょー楽しそうに笑ってる。

 友達に隠し事をして、恥ずかしそうに縮こまってる中途半端なあたしなんかとは違う。

「……いいなー」

 自信に満ちたその表情――

 教室じゃ端役も端役の嫌われ者が、遠くで輝く主役に見えた。

 変な自慢をするつもりはないけど、あたしはそれなりに人気者だ。

「あ、あいりじゃん。おはよー」

「はよ~」

 教室の扉を開けると、すぐ近くで話してた女の子二人が声をかけてきた。

 ピースをしながらいたずらっぽく笑いかけてくる黒髪ロングの子はかなこ。そして机の上に突っ伏してのんびりした調子の金髪はユイ。どっちもあたしの友達だ。

 

「おはよー……てかどしたんユイ。また溶けてるじゃん」

「べっつにー」

「今日はカズくんと一緒に来れなくて拗ねてんだってー」

「あ、ちょっと! かなこ余計なこと言わなくていいからっ」

「あはは、ごめんごめん。あ、見てあいり。顔赤くなってる」

「うわ、ほんとだ。今のユイ超かわいいよ」

「あいりうるさいっ。いちいちそんなんで照れないから」

「そう言うわりには顔赤いんじゃん。なんかニヤけてるし」

「ニヤけてないっ」

「まじ? じゃあちょっとこっち向いてよ」

「いいよ。全然ニヤけてないから」

 あたしの提案に乗ってくるユイ。

 すました雰囲気を出そうとする彼女と真っすぐ目を合わし、数秒睨み合う。

「……、」

「…………」

「カズくん」

「……! ふふっ」

「あ~笑ったー! かなこ見た今の?」

「見た見た。めっちゃ笑った」

「ああもう! もううっさいなーもうっ!」

「ちょっ、叩くなし! 痛い痛い、痛いからっ」

 ぽかぽかあたしの肩を叩くユイだけど、顔は超嬉しそうに笑ってる。

「え、ユイユイ」

「もうなに? 次いらんこといったら怒るからねあいり」

「はいはい。……あのさ、ユイはカズくんのこと好き?」

「もう~~~~!」

 またあたしの肩を叩いて来るけど、やっぱ超笑顔。可愛すぎ。

 

 

「あいりもう邪魔! さっさと自分の席行け!」

「邪魔はひどいでしょっ」

「あいりじゃまじゃまー」

「かなこあんた後で覚えとけよ」

「こわっ」

 ひらひらと手を振って二人から離れる。

 同グループの男子たちともあいさつやハイタッチを交わしつつ、自分の席へ。

 かばんを置いて筆記用具とノートを出そうとして……

「あぶな」

 一緒に出しそうになったタブレット端末をかばんに戻した。こんなん見られたら、ユイとかなこにいろいろ聞かれそうだし。

 

  ……今日は遊びに誘われてもパスって感じかなー。〝これ〟あるし。

 

 頭の中で放課後の予定を組み立てつつ、一通りの用意を終えた。ちらっと見た感じ男子も合流してるし早く行った方がいいかも。

 めんどくさいなー、とか思いつつユイたちのとこへ向かおうとしたところで、席一つ挟んだところに座ってる男子が目に入った。

 教室には目もくれずずっと窓の外見ているそいつは、ぼそりとこんな言葉を漏らした。

「…………神」

 

 ……相変わらず意味わかんない奴。

 ちょー無気力って感じの目は、たぶん誰のことも見てないんだろうね。

 あたしにもユイやかなこたちにも、本当に興味がなさそう。

 誰とも話さない……どころか、自分から拒絶してる感じ。

 あたしが嫌いなタイプの奴だった。

「あいりー、何してんのー? ユイがあいりのパンツ脱がすから早く来いってー」

「じゃあ絶対行くわけなくない?」

 とか何とか言いつつ、みんなのところへ向かう。

 しかしその出ばなをくじくように、男子のリーダー格が口を開いた。

「てかあいりさー、おまえもしかして門倉と話してたー?」

 うわ、めんどくさ……

 反応するのめんどくさいし、無視して歩き出す。

「いやいや、そんなわけないっしょ。だって門倉くん誰とも会話しないじゃん! また小説でも書いてんでしょー!」

「つか、門倉ってほんとに小説書いてんの?」

「さあ。でも小説とか普通書けなくね? つまんなさそうだし」

「はいはい、リョーマも山内もそこまでー。門倉くんの話しても仕方ないでしょ?」

「それもそうだな。かなこの言う通りだ」

「うわー、リョーマアホじゃね? そういうのいじめって言うんだぜ?」

「リョーマさいてー!」

「さいてー!」

「ユイ、山内……おまえら調子乗りやがって」

 いい感じに話が落ち着いたところを見計らい、あたしも合流する。

 

「お、あいり来たな」

「主役のとーじょうー!」

「じょう!」

「はいはい……」

 山内とユイが楽しそうに騒ぐ。それを適当になだめて会話に入った。

 けど……

「……あいり、なんか怒ってる?」

「え? 別に怒ってないけど。なんで?」

「ううん。別になんとなくそう思っただけ。なんでもないならいいや」

 そんな感じで。

 いろいろとありつつもあたしの一日は賑やかに始まる。

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 あたしこと新藤あいりには秘密がある。

 それは誰にも言えないこと。言いたいけど言えないことだ。

「……はぁ」

 

 場所は学校近くのとあるカフェ。駅までの道から少し外れるため、意外と誰にも知られていない穴場スポットだ。

 みんなには内緒で持ってきていたタブレット端末とブルートゥースキーボードをテーブルに置き、あるデータを開いた。

 そこにあるのは文字、文字、文字の羅列。

 物語を綴る文字の数々――小説だ。

 新藤あいりの大きな秘密とは、小説を書いているということ。

 しかも高校二年生にもなって、魔法少女ものの熱血バトル!

 しかもしかも、主人公は茶髪のギャル!

「あたし高2なのに……」

 でも、好きなんだからしょうがない。

 あたしは魔法少女が好きだし、小説を書くのも楽しい。

 なんとなく恥ずかしいことをしてる自覚はあるけど、でもやめる気はない。

 ただ……

「こんなの、ユイとかなこに知られたら……」

 考えるだけで恐ろしい。

 ユイもかなこも対等な友達だ。だが、友達である以上立ち位置というものが存在する。

 つまりそれは――いじる者と、いじられる者。

 あたしは当然、いじる立ち場。朝のユイとの絡みを思い出せばわかるだろう。

 そしてかなこもまたあたしと同じ。

 じゃあ、あたしとかなこなら?

 これがちょーめんどいんだよね。

 まず、クラス内の力関係って話だったら、かなこに対してもやっぱりあたしの方が強い。なぜならあたしの方がクラス外の友達も多く、さらに言えば男子からもモテるから。

 別にそれが嬉しいとかじゃなくて、事実として今のあたしとかなこの力関係はそういう状態ってこと。

 かなこはあたしに対して、一歩だけ引いた立場にいる。

 何をするにしても、最終決定権をあたしに与える。放課後遊ぶ場所も、休日の時間も、最後の最後にかなこはあたしに「これでいい?」って聞いてくる。

 あたしはそれをめったに拒否することはないけど、でもたぶんあたしが拒否すればそれだけで予定を変えると思う。(話ちょっと逸れるけど、ユイはあたしとの関係がはっきりしているからか、逆に変な気のつかい方はしてこない。)

 あたしとかなこの力関係は非常に微妙なものだ。クラス外と異性に対する影響力の差であたしがリードしているというだけで、人間的な部分のパラメータはたぶんそんなに変わんない。

 では、そんな微妙な力関係のあたしたちの間に、「あいりが魔法少女モノの小説書いてる」って爆弾が落ちちゃったらどうなるか。

 たぶんかなこは、すっごい嬉しそうにあたしのこといじると思う。それはたぶん、ユイも同じ。

 それがあたしは、すごくやだ。

 いじられることそのものが――じゃない。

 小説を書いてることを茶化されるのが、ほんとにやだ。

「はぁ……」

 そこでふと、今朝のことを思い出す。

 ユイとかなことの楽しいおしゃべり――の話ではない。

 門倉が茶化されたときの話だ。

 いや、別にあたしだって門倉のことはあんまり好きじゃない。ってゆーか、クラスの誰とも話さないで、あたしらのことを見下した感じがするし、結構嫌い。

 でも、だからって……なんか、ああいうのなんか違うと思う。

 何よりあたしが小説書いてるのは門倉に影響されたからだし、なんかそういう意味でも門倉をけなされるのはムカつく。

 や、まああたしも門倉のことは嫌いなんだけどさ。

「……ムカつく」

 

 嫌なことがあると、頭の中でそれがぐるぐる回って集中できない。

 目の前に小説の原稿があるのに、なに書いたらいいかわかんない。

 てゆーかそもそも、かれこれ二週間くらいなに書いたらいいかわかんないって感じなんだけどね。

 

 

「小説って、ほんっと意味わかんない」

 

 

 それから一時間粘ったけど、結局なんか面白くならなくて諦めて帰った。